消えゆく街を、線で留める。——PEN SO という作家について。

消えゆく街を、線で留める。——PEN SO という作家について。

古い建物は取り壊され、見慣れた街角はいつのまにか姿を変える。その移り変わりを、モノクロの緻密な線で描き留め続けてきたアーティストがいる。PEN SOだ。CAMELの116シリーズには、彼が描いたノスタルジックな香港の情景をまとった一本がある。記憶という、目に見えないものを線に変える仕事について、たどってみたい。日用品としてのボトルと、アーティストの表現。一見交わらないふたつが、どのように出会ったのかも合わせて見ていく。

PEN SOという作家について

独学から始まった画業

PEN SOは、香港生まれのイラストレーター・グラフィックデザイナーだ。香港知専設計学院(HKDI)を卒業したのち、独学で絵を描き始めた。特定の師について技法を学んだわけではなく、自分の内側にあるものを表現するための手段として、絵と向き合い続けてきた。

その創作の旅路には、マンガ界の巨匠として知られる馬栄成(マー・ウィンシン)、新海誠、宮崎駿といった作家たちからの影響があるという。国や世代の異なる作り手たちの仕事を吸収しながら、自分自身の画風を築き上げてきた。

モノクロという選択

この作家の作品を特徴づけるのは、白と黒だけで構成された緻密な線描だ。色を使わないことで生まれるコントラストが、建物の陰影や街の質感をより強く際立たせる。

日本の漫画に親しんで育った世代であることも、この画風と無関係ではない。白黒こそが漫画の「王道」だという感覚が、幼少期から自然と身についていたという。そうして選び取られたモノクロという手法が、今では彼の代名詞になっている。

足で稼ぐ、フィールドワークという制作方法

彼の作品に登場する建物の多くは、実際にその場所へ足を運び、目にした光景をもとに描かれている。写真だけを参考にするのではなく、現地の空気や光の入り方、周囲の生活の気配までを取り込もうとする姿勢が、線の一本一本に説得力を与えている。

取り壊しが決まった建物や、すでに再開発の対象になっている街区を優先的に訪れることもあるという。記録としての意味合いも、彼の創作活動には込められている。絵を描くという行為が、同時に街の記憶を保存する作業にもなっている。撮影された写真は時間が経てば色褪せていくが、線として描き起こされたイメージは、また違う形で記憶を留め続ける。そこに、彼がわざわざ現地に足を運んでまで絵を描く理由がある。

消えゆく香港を、描き残す

建築と記憶というテーマ

彼の作品には、香港の古い建築物がたびたび登場する。街角のコーナーハウス、植民地時代の建物。すでに取り壊されたり、姿を変えてしまった場所も少なくない。

白黒の古い写真を好むと語っており、高いコントラストが構図を引き立てるからだという。歴史的建造物のディテールを見つめ、その扉の向こうにある物語を想像すること。それが、彼の創作の出発点にある。

物語としての漫画表現

2016年に発表した最初の個人イラスト集「香港災難(Hong Kong Havoc)」は、香港が大地震に見舞われるという架空の物語を描いた作品で、その年の主要な出版賞を総なめにした。2017年には「九龍城寨:場景故事畫集之浪漫大逃亡」を発表し、フランス・アングレーム国際コミックフェスティバルにも香港代表として参加している。

2022年に発表した「回憶見(See You in Memories)」は、記憶を失った歌姫が、香港の街を描いたスケッチブックを手がかりに過去をたどる物語だ。作品の舞台となる時代設定には、失われつつあった尖沙咀のミドカフェや、すでに解体された水上レストランなど、実在した香港の風景が織り込まれている。すでに取り壊されたり改装されたりした場所も少なくないため、周りの環境に目を向けてほしいという思いを込めていると、彼は語っている。

職人の手仕事と、アーティストの筆致

1940年代から続く、香港のものづくり

CAMELは1940年代、香港・九龍湾の自社工場から始まったブランドだ。大量生産ではなく、職人の手で一本ずつ仕上げるという姿勢を、今も守り続けている。ガラス内瓶という選択も、その姿勢の延長線上にある。制約の多い環境の中でこそ、より良い解決策が生まれるという考え方は、創業当初から変わらずCAMELのものづくりを支えてきた。

彼が一本一本の線を積み重ねて建物のディテールを描き出す作業も、同じように地道な手仕事だ。効率よりも精度を選ぶという態度において、CAMELとこの作家には共通するものがある。派手な機械化や大量生産に頼らず、手間のかかる工程をあえて選び続けるという判断は、両者に共通する誠実さの表れでもある。

香港という土地が育てたもの

CAMELというブランドも、この作家も、香港という同じ土地から生まれた。変わり続ける街並みと、そこに積み重なる記憶。そうした土地の空気が、それぞれのものづくりの根底に流れている。ひとつは飲み物を運ぶ道具として、もうひとつは消えゆく風景を描き残す手段として、それぞれ異なる形でこの街と向き合ってきた。どちらも、派手さより誠実さを選び続けてきたという点で、静かに響き合っている。

116 PEN SOというボトル

CAMELのアーティストコラボレーションシリーズのひとつとして、116(450ml)にはPEN SOが手がけたアートワークをまとったモデルがある。どこかノスタルジックな香港の情景が描かれ、日常の一杯とともに"記憶の風景"を楽しめる一本に仕上げられている。

ガラス内瓶という素材は、香港で長年守られてきたCAMELのものづくりの核心にある。そこに、同じ香港を拠点とするアーティストの、消えゆく風景への眼差しが重なる。派手さではなく、静かな郷愁を湛えたボトルだ。

持ち歩くたびに目に入る小さなアートワークは、遠い異国の観光地ではなく、誰かにとっての「かつての日常」を映し出している。見る人によっては、自分自身の記憶と静かに重なる瞬間があるかもしれない。そういう余白を残した表現であることも、この作家の作品らしさのひとつだ。派手な主張をせず、静かにそこにある。使うたびに少しずつ気づきが増えていくような、そんな一本を目指してつくられている。

評価される作家性

日本国際漫画賞という舞台

この作家は、外務省が主催する日本国際漫画賞において、複数回にわたり評価を受けてきたアーティストだ。2022年発表の「回憶見」は第16回日本国際漫画賞で銀賞を受賞し、イタリアのボローニャ・ラガッツィ賞でも評価された。そして2024年発表の「達利書店(Dali Libreria)」は、2025年の第19回日本国際漫画賞において、110の国と地域から738作品という過去最多の応募があった中、入賞に選出されている。

国内外での受賞歴に加えて、彼はメルセデス・ベンツやアウディといった国際的なブランドともコラボレーションを行ってきた実績を持つ。異なる業界のブランドが、それぞれのタイミングで彼の表現に価値を見出してきたという事実は、その画風が持つ普遍的な魅力を物語っている。

フランス・アングレーム国際コミックフェスティバルへの参加や、ドイツ・ベルギーでの作品展示など、活動の舞台は香港の外にも広がってきた。ローカルな題材——取り壊されていく香港の建物や街並み——を描きながら、それが国境を越えて評価される。身近な記憶への眼差しが、普遍的な物語の力を持つことを、彼のキャリアは示している。特定の観光地や有名な建造物だけでなく、名もない街角や生活の匂いが残る場所にまで目を向ける姿勢が、多くの人の心を動かしてきた理由なのかもしれない。

ボトルに、物語を込めるということ

116シリーズが、キャンバスに選ばれる理由

CAMELの116は、これまでも複数のアーティスト・IPとのコラボレーションを重ねてきた。Bruce Leeの哲学「Be Water」を宿した116や、香港の躍動感を描くJERRY CHOとのコラボレーションもそのひとつだ。ジャンルも表現手法も異なる作り手たちが、なぜ同じ116というボトルを選ぶのか。

理由は単純だ。116は、ガラス内瓶という機能面での完成度に加えて、表面がアートワークを美しく見せる面積とフォルムを持っている。実用品でありながら、アーティストの表現を邪魔しない静かな佇まい。それが、多様な作家との協業を可能にしてきた。

日常に、記憶を持ち歩くということ

美術館やギャラリーでしか出会えないアートと、毎日バッグに入れて持ち歩くボトルは、本来遠い存在だ。CAMELのアーティストコラボレーションは、その距離を縮める試みでもある。

朝、水筒に手を伸ばすたびに、彼が描いた懐かしい香港の情景が視界に入る。それは、鑑賞するアートというより、生活の中に溶け込んだアートだ。消えていく風景を惜しむ気持ちが、日々の一杯とともに、静かに手のひらに宿る。

これからも続く、アーティストとの物語

CAMELとこの作家のコラボレーションは、116シリーズだけにとどまらない。香港のアーティストたちとの対話は、これからも新しい形で続いていく予定だ。ボトルという小さなキャンバスの上で、次にどんな記憶が描き残されるのか。その物語は、まだ途中にある。

消えゆく街を、線で留める。彼が描くものは、いつも失われつつある何かへの、静かな眼差しだ。その視線を、CAMELのボトルを通して、日々の暮らしの中に持ち帰ってほしい。持ち歩くたびに、香港のどこかの路地の記憶が、少しだけ手のひらに戻ってくる。そんな一本になれば、このコラボレーションは目的を果たしたことになる。

建築というテーマを通して、彼が一貫して問いかけているのは「何を残し、何を忘れていくのか」という問いだ。CAMELというブランドもまた、変わらない製法や素材への信頼を軸にしながら、時代に合わせて新しい表現と手を組んできた。守るべきものと、更新していくもの。そのバランス感覚を、この作家とのコラボレーションからも感じ取ってもらえたら嬉しい。一本のボトルが、誰かにとっての街の記憶と静かに結びつく。そんな小さな出会いが、このコラボレーションの目指すところだ。

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よくある質問

Q. PEN SOとはどんな作家ですか?

香港生まれのイラストレーター・グラフィックデザイナーだ。香港知専設計学院(HKDI)を卒業後、独学で絵を描き始めた。モノクロの緻密な線描で、香港の古い建築物や街並み、そこに宿る記憶を描き続けている。

Q. 116 PEN SOには、どんなアートワークが描かれていますか?

どこかノスタルジックな香港の情景が描かれ、日常の一杯とともに"記憶の風景"を楽しめる一本に仕上げられている。彼の代名詞であるモノクロの緻密な線描で、香港の建築や街並みの記憶が丁寧に表現されている。

Q. PEN SOは受賞歴がありますか?

2022年発表の「回憶見(See You in Memories)」で第16回日本国際漫画賞の銀賞を受賞し、イタリアのボローニャ・ラガッツィ賞でも評価された。2024年発表の「達利書店(Dali Libreria)」は、2025年の第19回日本国際漫画賞で入賞に選出されている。いずれも、香港の記憶を描いた作品としての評価だ。

Q. PEN SOの作品はどこで見ることができますか?

「香港災難」「九龍城寨:場景故事畫集之浪漫大逃亡」「回憶見」「達利書店」といった作品集が出版されているほか、Instagramでも日々の制作を見ることができる。フランスのアングレーム国際コミックフェスティバルなど、海外での展示に参加することもある。116シリーズには、同じく香港出身のJERRY CHOとのコラボレーションモデルもあり、詳細はアーティストコラボレーションシリーズで確認できる。

Q. 今後も、アーティストとのコラボレーションは続きますか?

香港のアーティストたちとの対話は、116シリーズにとどまらず、これからも新しい形で続いていく予定だ。ボトルという道具を通して、香港の作り手たちの表現を届けるという試みは、CAMELにとって継続的なテーマのひとつになっている。詳細が決まり次第、Journalや各種案内でお知らせしていく。

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