工場が、ホテルになった日。
工場が、ホテルになった日。
場所には、記憶が宿る。
1986年から2013年まで、香港・九龍湾のその建物では、毎日ボトルがつくられていた。金属を叩く音、ガラスを成形する熱、職人たちの手の動き。「New Camel House」と呼ばれたその工場は、CAMELという香港ブランドの心臓部だった。
工場が閉じた後、建物は静かになった。でも梁家は、その場所を手放さなかった。
2017年、そこにホテルが生まれた。
工場の記憶を、空間に残す
解体ではなく、継承を選んだ
CAMLUXホテルは、単なる「工場跡地のホテル」ではない。
工場の記憶を、意図的に空間に織り込んだ場所だ。
ロビーに入ると、フロントデスクが目に入る。その表面を埋め尽くしているのは、ガラス内瓶100本だ。かつてここで製造されたボトルそのものが、チェックインカウンターになっている。
ロビーの壁面には、ステンレス製のディスクで作られたモザイクがある。これもまた、工場でボトルを製造する過程で使われた素材だ。世界地図が描かれた一面には、CAMELの製品が輸出された国々に赤いディスクが置かれている。香港には特別なマークが入り、「ここから始まった」という事実が静かに示されている。
客室のランプシェードは、魔法瓶をアップサイクルしたものだ。廊下には工場時代の設計図や、1950〜70年代のCAMELのパッケージデザインが飾られている。カーペットの模様は、かつて工場で使われていた型抜きパターンから着想を得ている。
建物のあちこちに、CAMELの歴史が「生きた素材」として溶け込んでいる。
魔法瓶メーカーが、ホテルを経営する理由
世界でも極めて稀な、ブランドの体験施設
飲料容器のメーカーが、ブランドを体現するホテルを経営している。
世界を見渡しても、これほど一貫したブランド体験を提供する場所はほとんどない。自動車メーカーやファッションブランドがミュージアムを持つことはあっても、宿泊できる工場跡というのは稀だ。
CAMLUXホテルが特別なのは、それが「博物館」ではなく「ホテル」であることだ。泊まり、食事をし、朝を迎える。その日常の時間の中に、CAMELの歴史と美学が溶け込んでいる。
ブランドを「見る」のではなく、「過ごす」場所として設計されている。
三代目のレイモンド・リョンが建築を学んでいたことは、偶然ではないかもしれない。空間をどう設計するか——それはボトルをどう設計するかと、同じ問いから始まる。
3階にあったもの
100トンのガラス炉という、工学的偉業
この建物には、かつて3階に工業用のガラス炉があった。
重さは100トン以上。ガラス内瓶を製造するために必要な、高温で材料を溶融する巨大な設備だ。6階建てのビルの3階に、100トンの炉を設置する。それ自体が、一種の工学的偉業だった。
ガラスを吹く技術者が減り、2008年にCAMELはガラス内瓶の自社製造を一時停止した。「最後のガラス製造者だった。炉を止めたのは、その技術を引き継ぐ人がいなくなったからだ」——レイモンドは当時をそう振り返っている。
その炉があった場所が、今はホテルの客室になっている。
歴史は消えたのではなく、形を変えて続いている。
CAMartというアートスペース
ブランドの歴史を、歩きながら読む
ロビー横の廊下に、CAMartという展示スペースがある。
CAMELの75年以上の歴史を、写真とプロダクトで辿ることができる。かつて香港の家庭に当たり前にあったヴィンテージのフラスク、工場が稼働していた頃の記録写真、時代ごとに変わってきたデザイン。
ホテルのチェックインで訪れた人が、そのまま「CAMELとは何か」を知ることができる動線になっている。
香港好きの日本人旅行者が、このホテルに泊まってCAMELを知ることもある。逆に、CAMELのボトルを手にした日本のお客様が、香港に行くなら一度このホテルを訪れてみようと思うこともある。
モノとストーリーが、場所を通じてつながる。
九龍湾という場所
かつての工業地帯が、新しい街に変わっていく
CAMLUXホテルが立つ九龍湾は、かつて香港の製造業を支えたエリアだ。
香港の製造業は1950〜70年代に黄金期を迎えた。繊維、玩具、時計、電子機器——九龍湾を含む九龍のいくつかの地区に工場が集積し、世界に製品を送り出していた。80年代以降、生産が中国本土へ移るにつれ、工場は次々と閉鎖された。
今、九龍湾は香港の「第2の中心業務地区(CBD2)」として再開発が進んでいる。CAMLUXホテルはそのエリア初のホテルとして開業し、新しい九龍湾を象徴する場所のひとつになっている。
古いものと新しいものが共存する——それは香港という街そのものの姿でもある。
CAMELのボトルを手に、その場所へ
CAMLUXホテルに泊まることは、CAMELというブランドの文脈の中で時間を過ごすことだ。
ロビーのガラス内瓶のフロントデスクを触れる。客室で魔法瓶から転用されたランプに照らされる。CAMartでヴィンテージのフラスクを眺める。
そしてもし手元にCAMELのボトルがあれば、その意味が少し変わる。1940年代から続く香港のものづくりが、自分の手の中にあることを、あの場所で実感できる。
工場が、ホテルになった。記憶は消えず、形を変えて生き続けている。

よくある質問
Q. CAMLUXホテルはどこにありますか?
香港・九龍湾(Kowloon Bay)のWang Kwong Roadに位置しています。九龍湾MTR駅から徒歩圏内です。かつての旧Kai Tak空港に近いエリアにあります。
Q. CAMLUXホテルとCAMELは同じ会社ですか?
はい。CAMLUXホテルは、CAMELブランドを持つ梁(Leung)家が、旧工場ビル「New Camel House」を改装して開業したホテルです。
Q. ホテルにCAMELのボトルは販売していますか?
ヴィンテージのCAMELのフラスクや現行製品がホテル内で購入できる場合があります。詳細はホテルに直接お問い合わせください。日本からはmadebycamel.jpでご購入いただけます。
Q. ホテルの予約はどうすればいいですか?
CAMLUXホテルの公式サイト(camluxhotel.com)または主要な宿泊予約サイトからご予約いただけます。
Q. 日本からCAMELのボトルを購入するには?
madebycamel.jpにて日本向けに販売しています。ガラス内瓶モデル(香港製)とセラミックコーティングモデル(中国製)のラインナップがあります。
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